ずっとずっと、キミとあの夏をおぼえてる。
朝の電車は通勤、通学ラッシュより早めなので座れることが多い。

隣に座った彼の肩が時々ぶつかるたびに、私がドキドキしていることなんて、きっと気づいていない。

同じ時間を共有しすぎて、もはやこのくらいは当たり前のことで、彼にとって私は“空気のような存在”なのかもしれない。

私は……そうじゃないのにな。


彼が野球に打ち込めば打ち込むほど太くなっていく筋肉は、小さい頃の柔らかかった体に比べると男らしく、袖をまくろうものなら、そこから伸びる腕に視線が釘付けになってしまう。

しかし、少し力を入れるだけで筋肉の筋がスーッと通り、彼が男であることを意識してしまうと、照れくささのあまり、いつもおどおどするはめになる。

私よりずっと大きな手は関節が太く、その指に少し触れられただけで心臓が激しく暴れ出す。


けれど、そんなことを考えていると知られるのは恥ずかしいので、絶対にバレないようにしなくちゃ。
< 4 / 152 >

この作品をシェア

pagetop