ずっとずっと、キミとあの夏をおぼえてる。
彼とまともに視線を合わせるのが恥ずかしくて目を泳がせながら言うと、彼の指が私の唇を押さえた。
な、なに?


「それ、耳にタコだから」

「わかってるなら、やってきなさい!」


まるで先生のような言い方になってしまった。

彼に触れられた唇が熱くてたまらなくて、顔全体が真っ赤に染まる。
触れたのは指だったけれど、キスでもしたかのような錯覚に襲われてしまった。

もー、どうしてこういうことをサラッとできるのかな。

やっぱり、私なんて眼中にないからなのかな……。“空気”の私なんて。


電車の中まではこんな会話をしてくれる彼も、学校の最寄駅に着くと途端によそよそしくなる。

野球部の仲間を見つけると私なんて放っておいてそっちに行ってしまうし、そうでなくてもひと言も話さない。

おそらく、他の人に私と仲良くしているところを見られるのが恥ずかしいんだろうとは思っているけど、ちょっと寂しい。


小さな頃は、よく手をつないでいたのにな……。
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