ずっとずっと、キミとあの夏をおぼえてる。
彼が一心不乱にボールを投げ込む姿や、歯を食いしばりながら腹筋を繰り返す姿。
そして、まめをいっぱい作りながらバットを振り続ける姿は、私の心をいつも揺さぶる。

甲子園という目標に向かって、真剣にそしてコツコツと努力を重ねる彼に恋をすることを止めることなんてできなかった。


しかも……彼は私に約束してくれた。


『俺、栞を甲子園に連れていくから』


小四になった頃、彼は私にきっぱりと言った。
あれから彼の夢は、私の夢にもなった。


「大河」


学校の最寄駅に着くと大河の名前を呼んで近づいてきたのは、同じ野球部の本山(もとやま)悟(さとる)くん。

彼はちょっと横に太めの体型で、背も大河より十センチくらい低い。
走るのは苦手だけれど意外に反応がよく、野球のセンスは抜群だ。

彼は一年生でたったひとりのキャッチャー。
同じく一年生唯一のピッチャーの大河とはよく一緒に練習をしている仲だ。


「おぉ、悟か。おはよ」


大河はいつものように本山くんと肩を並べて歩き始めた。
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