キミを奪いたい
あの後ろ姿が好きだった。
時折振り返って、私に手をさし伸べてくれる瞬間が好きだった。
手を繋いで並んで歩くのも、私を見下ろす優しい瞳も。
なにもかも大好きだった。
だけどもう、あの頃の優しいリョウはどこにもいない。
振り返ってくれることもないし、手を差し伸べてくれることもない。
私に向けられるのは敵意だけ。
敵意しか向けられない。
それがこんなにも哀しいなんて……。
「────ねぇ、もしかしてリョウに気でもあるの?」
「っ、」
「な訳ないか。緋月の姫だもんね」
「………」
「……まさかそうだって言わないよね?」
私の動揺を感じ取ったナギサくんが、声のトーンを下げて私を覗き込んできた。
けど、ナギサくんが覗き込んで来ようが睨んでようが、今の私にはどうでも良かった。
私の意識はもう彼に─────リョウにあったから。
まるでスローモーションのように流れていくリョウの後ろ姿。
正直、見たくなんかなかった。
リョウが、一番手前にいた女の子をさらっていく所なんて。