キミを奪いたい
「あや───」
私を呼ぼうとしているリョウに向かって小さく首を振る。
そして目で訴えた。
呼ばないで、と。
すでに顔を見られている可能性はあるけれど、もしかしたらこの薄暗さで見えていないかもしれない。
だから、極力彼らの前で名前を呼ばれるのだけは避けたかった。
それは私だけじゃなく、リョウにとっても私の正体がバレない方がいいと思ったから。
意表を突かれて驚いていたリョウも、私が首を振ったことで察したのか口を噤んだ。
それを見届けた私は、何か言いたそうにしているリョウから目を逸らし、その場から駆け出した。
当然、Zeusの幹部たちがいる方ではなく、逆方向へ。
幸い誰かが追ってくることはなくて。
いくつかの角を曲がり、割と人通りの多い大通りに出たところで走るのを止めて、ゆっくりと歩き出した。