キミを奪いたい
────無事で良かった。
その言葉を聞いてしまったら、もう涙を止めることなんて出来なかった。
頭の中は色んな感情でグチャグチャで、まともな思考なんてもう持ち合わせていない。
冷静だったら、きっとこの腕を払っていた。
婚約者がいるんだからって、
もう別れてるんだからって、
私たちは違う世界の人間だからって────突き放してた。
けど、思考がグチャグチャな今は、来てくれたことがただ嬉しくて、離そうなんて気持ちは一切生まれなかった。
「リョウ……」
ぎゅっと服を握りしめると、私を抱きしめる腕の力が強くなった気がした。
リョウの匂い、安心する……
リョウと距離が縮まった気がして、嬉しくなる。
「リョウ……!」
そんな私の温もりをかき消したのは、凛と強く響いた婚約者の呼び声だった。