キミを奪いたい
っていうか、彼女はリョウの婚約者だ。
その婚約者にこんな冷たい声を出すのだろうか。
しかも、今、俺の前から消えろって言ったよね?
そんなこと、婚約者に言うなんて……
と、二人の関係性に驚いている内にリョウに誘導されていて、彼女じゃなくて私たちの方が彼女の前から消えていた。
進む方向はさっき私が脱走した縁側の方じゃなく、リョウが来た座敷の方で。
進む先には、黒スーツの男の人達が道を開けて立っている。
いくつかの座敷を通り過ぎ、さっきとは別の縁側を通り過ぎ、さらに広々とした廊下を通り過ぎると、高級旅館かと目を疑いたくなるほど広い玄関にたどり着いた。
玄関の端にはなぜか私の背丈よりも大きな木彫りの熊がいて、その横にはよく分からないオブジェがいくつか置いてある。
庭の滝もそうだけど、この家の人の趣味、やっぱり変わってるよね……
そう思った時、リョウの温もりが消え、リョウが先に靴を履きにたたきへと下りた。
そして、靴を履いたと思ったら向わせになり、なぜか私に向けて手を広げてくる。