キミを奪いたい
「来いよ」
さっきとは違う穏やかな声。
私にとっては、馴染みのある声。
このセリフも声も。
付き合ってた時、いつもバイクから下ろして貰う時はこんな感じだった。
私がバイクに乗っていて、先に下りたリョウが下から手を広げてくれる。
そして私は、“来いよ”って言って笑むリョウの胸に呼び込むんだ。
「……うん」
こんな風に。
抱き止めてくれたリョウは、抱き変える前にぎゅっと抱きしめてくれた。
これも、付き合ってた時と同じ。
何だか懐かしいな……
苦しいような嬉しいような、正反対の感情が胸の奥でぐるぐるしている。
けど、不思議と嫌な気持ちではない。
「あの、リョウ、私はこれから──」
どうしたらいいの?
そう聞こうとすると、
「緋月が外で待ってる」
リョウが私の言葉を遮ってそう言った。