キミを奪いたい
「……峠を越した翌日、目が覚めたお袋に言われた」
お母さんに……?
「“お母さんはリョウの幸せだけを願ってる”」
「っ、」
それを聞いて、何も言葉が出なかった。
言われた時のリョウの気持ちも、
それを言ったお母さんの気持ちも、
どっちも痛いほど分かったから。
まるで自分のことのように胸が苦しくて、つらくて……泣きそうになる。
「それを聞いた時、自分の幸せが何なのか考えた」
「……うん」
「つーか、浮かんだ」
……浮かんだ?
「お前の顔が」
まっすぐ私を射抜く視線に、うるさかった鼓動が一段と加速した。
あまりにもまっすぐすぎて、息苦しささえ感じるほどで。
何か言わなければいけないと頭では分かっているのに、バクバクと主張してくる鼓動がうるさすぎて何も考えられない。