キミを奪いたい
「あやの」
「うん?」
「全て片付いたら、お袋に会ってやってくんねーか」
「……お母さんに?」
「あぁ。お前に会いたがってる」
「……っ、うん」
お母さんが私に会いたいと言ってくれている。
それがすごく嬉しくて、引っ込んだはずの涙がまた溢れ出した。
「それも迷いが消えた理由の一つだった」
「……え?」
私の涙を拭いながらそう言ったリョウの声は、消えそうな程小さな声で。顔を上げれば、涙越しにリョウと目が合った。
揺れているのは、自分の涙のせいなのか。
それとも本当にリョウの瞳が揺れているのか。
それが気になったのは一瞬だけで。
次の瞬間にはもう、リョウ腕の中に閉じ込められていた。
「……っ、リョウっ、」
────リョウが、震えてる。
それに気付いた途端、拭って貰ったばかりなのにまた涙が溢れ出した。
「……全てが終わったら、二人でお母さんに会いに行こう」
震えるリョウを力いっぱい抱きしめながらそう声をかけるけど、リョウからの返事はなく。その代わりに強く抱きしめ返された。