キミを奪いたい
お母、さん……?
お母さんの手が微かに動いた気がして、握っていた手の力を緩めた。
すると、お母さんの手が私の顔の方に寄ってきて、冷たい指先がそっと私の右頬に触れた。
お母さんの意図を汲み取った私は、もう一度お母さんの手を包み込み、自分の頬へとあてる。
右頬へと伝わるのは、必死に生きようとしているお母さんの体温。
絶え間なく流れ落ちる涙がお母さんの手を濡らすけど、それでも離す気は起きなかった。
室内に響く、お母さんの吐息。
リョウも私もお母さんに伝えたい事が沢山あったはずなのに、いざ目の前にすると何も言えなくて。
ただ穏やかに過ぎていくこの時間に身を任せることしか出来なかった。
このまま持ち直して欲しい。
そう思ったのも束の間。
無情にも私の願いが打ち砕かれてしまった。
「ゴホッ……ゴホッ……ッ!」
「母さん!!」
「お母さん……!」
大きく咳き込んだお母さんに、私とリョウは勢いよく立ち上がる。