キミを奪いたい




「……今までよく頑張ったな。苦労をかけた」



そう言ったお父さんは一歩踏み出し、そっと手を伸ばしてお母さんの頭を一撫でした。


その仕草はまるで子供を撫でるように優しくて……慈愛に満ちていて。


見つめる視線に“お母さんへの愛”を感じた。



それは私だけじゃなく、リョウも感じ取ったのか、

リョウは泣きそうな顔で唇を強く噛み締め、お父さんをジッと見つめている。



きっとリョウはこんな二人を見たことがなかったんだと思う。


義母に“お母さんは捨てられた”と告げられ、お母さんは愛されていなかったんだと思い込んだ。

けど、違った。


お父さんは確かにお母さんを愛していた。


ううん、今も愛している。


今ならリョウにもお母さんとお父さんの気持ちが伝わっているだろう。

当時のどうすることも出来なかった、二人の気持ちを。




「……リョウを、産んでくれてありがとう」

「っ、」

「これからはお前の分も見守っていく。


────この二人を」




そう言ったお父さんは、この病室に入って初めて私達を見た。


真っ直ぐ。真剣に。


今までで一番優しい瞳で、私達を見つめた。

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