キミを奪いたい
「母さん……」
ゆっくりと、リョウの方へと頭を傾けたお母さん。
その瞳はリョウを優しく見つめていて。
同時に、隣にいる私にも向けられた。
「……こちらこそ、ありがとうございます」
苦しいはずなのに私を見るお母さんの瞳は穏やかで、優しくて。
その目が“ありがとう”と言ってくれているように感じて、お礼を伝えながらリョウの手越しにお母さんの手を握りしめた。
すると、気のせいかもしれないけどお母さんの手が動いた気がして、
「お母、さん……?」
口元を見ると、お母さんは私達に何かを伝えようと口をパクパク動かしていた。
「母さん?なに?」
けど、出ているのは吐息だけで、声は全く出ていなくて。
「母さん……!」
ゆっくりと微笑んだお母さんの目から、ツツッと静かに涙が流れ落ちる。
そして、笑顔を浮かべたままそっと目が閉じていった。
「母さん!!母さん……!!」
リョウがお母さんの手を何度も何度も揺さぶるけれど、何の反応もなくて。
「母さん!母さん……っ!!」
「……ふっ、ぅ……お母さん……!」
その後、何度も呼びかけても、
手を強く握りしめても、
お母さんの目が私達を見つめる事はなかった。