キミを奪いたい
「なん、でここに……」
「……聞きに来た」
「……」
「単刀直入に聞く。お前は緋月の姫なのか?」
「っ」
唐突に投げつけられたその言葉に、ただでさえ速くなっていた鼓動がさらに加速した。
視線があちこちにさまよって、吐息しか発せない唇が動揺で小刻みに震える。
「あやの」
私を呼ぶたび距離を縮めてくるリョウに私の足も比例して後退するけれど、それもすぐに壁によって阻まれてしまう。
「答えろよ、あやの」
背中にはマンションの壁。目の前にはリョウ。
逃げ場なんてどこにもない。
人一人分空いたもどかしいその距離は、今の自分には近くて、過去の自分にはものすごく遠い。
近づきたいのに近づけなくて、
触れたいのに触れられない。
複雑な感情が私の心を支配する。