溺愛はいらない。
再会は突然に
––じめじめとした湿気を含む空気が漂う、ある日。
『あ〜もう、最悪〜!雨のせいで、せっかくセットした髪がぁー…』
昼休みももう終わるという時、お化粧直ししている私の横で、同僚の藤波 さとみが、胸元まで下ろした髪をつまんでぼやいた。
最近、色のトーンを落としたという彼女の髪は、今朝会った時には綺麗にかかっていたカールがだらんと緩まって彼女の指先に寄りかかっている。
『莉子はいいよね〜』
「え?」
『だって、雨の日でもカールが綺麗にかかってる。』
……。
横から盛大な羨望の眼差しが送られているが、私は全て無視をした。
コンプレックスというのは人によってはチャームポイントに変わるらしい。
それは、雨の日に決まって主張が強くなる、私の天然パーマだ。
毎朝必死でヘアアイロンをかけたストレートな髪も、湿度に敏感で、雨の中出かければ100%の確率で、クルッとアイロンをかけたかのようにカールがかかる。
それは今日も例外じゃなく、30分だけ会社を出て外食しただけで、前髪と肩から下の髪が見事にクルクルだ。
梅雨の時期、毎日持参している充電式のヘアアイロンで前髪を整えるも、さすがに後ろ髪は無理そうだ。
『なんで莉子は天パを嫌がるかなぁ?私は好きだけど、莉子の巻き髪。』
「何もしなくてもストレート髪のさとみに言われても、何も嬉しくないから。」
『ひどっ!え、前髪だけでいいの?』
なんとか前髪の修正だけはできてヘアアイロンを片付ける私に、さとみは物珍しそうな視線を向けた。
今日は業務の後に出かけることもないし、後ろ髪まで気をつけなくてもいいだろう。
「うん、もう時間ないし、最低限の前髪だけでも手直しできたからいいの。ほら、もう行くよ?」
『うん。…これは…男たちが荒れるな…』
トイレを後にする私の後ろでさとみがボソッと呟くも、よく聞こえなかった私は振り向く。
「何?なんか言った?」
『ううん!行こ!』
午後の業務はどうにも眠くてやる気が出ないと、普段は嘆いているさとみがヤケにやる気なものだから、もしかしたら今日の雨は嵐になるかもしれないと一抹の不安を抱えながらも、いつの間にか私の前にいたさとみの後ろをついて行った。
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