溺愛はいらない。
『莉子〜!行く?』
残業終わり。
パソコンの電源を落としていた私の元にやってきたのは、もうすでに荷仕度を整えたさとみだ。
行く?とは、これから飲みに行かないか?という暗黙の誘いだった。
「あー…ごめん、今日はちょっと。」
いつもだったらここで頷いて2人で行きつけの居酒屋に繰り出すところだけど、今日は生憎の雨。
これ以上、このクルクルの髪を晒して外に出たくはない。
珍しく、さとみの誘いへの返事を濁した私に、さとみはとても驚いたようで、途端に悲しげな顔をした。
『え〜?!何か用でもあるの〜?』
「…そういうわけじゃないけど、今日はごめん。…明日だったら行けるから。ね?」
駄々をこね始めようとするさとみを落ち着かせようと、こちらから別日での飲みに誘った。
『……わかった。絶対だからね?!明日、土砂降りの雨でも、絶対飲みに行くんだから!』
「はいはい、わかりました。」
誘いを断った私の本音を見抜いていたさとみの容赦ない嫌味に苦笑いで返す。
さすが……私のことがよくわかっていらっしゃる。
約束を取り付けたさとみは、先ほどよりも気を良くしたようで、颯爽と帰って行った。
……こういう、切り替えが早いところも好きだわ。
なんだかんだ言っても、私の思っていることを自然と汲み取ってくれて、それを受け入れてくれる同僚に感謝しながら、私も帰る支度を整えた。