溺愛はいらない。



会社のビルを出ると、日が落ちているせいなのか、それとも雨のせいなのかわからないほど、視界が悪かった。

この雨…傘をさす必要ある?

ここまで土砂降りの雨だと、傘をさしても無意味なのではないかと、帰るのも憂鬱になるけれど、お腹も空いたし、会社に長居するのが好きじゃない私は、仕方なく会社の玄関先で傘を広げた。

普段は電車で通勤している私だけど、ここまで酷い雨の日は、より家の近くまで濡れずに済むバスを利用することにしていて、今日も会社近くのバス停へ向かった。


よかった、昨日スーパーで買い物しておいて…。

タイミングよく昨日の会社帰りに2、3日分の買い物を済ませていたため、このまま直帰できることだけが心の救いだった。

この雨…明日には止むのだろうか?

梅雨時期なだけに、雨天が続きそうで、また憂鬱な気持ちになる。


ダイヤが乱れているせいか、乗車したバスはとても混んでいて、はっきり言って最悪だった。

床は濡れていて滑りやすくなっているのに、荒い運転。そして、雨で蒸し暑い上に、最悪な人口密度の高さで、また暑さが増す。

いやでも、ずぶ濡れになって帰るよりマシだと、自分に言い聞かせて、最寄りのバス停まで我慢した。


電子マネーカードをカードリーダーにかざして下車し、もう見えている自宅を目指す。

今日の夜ご飯は何にしよう。

けど先にお風呂は入りたいな…ああ、でも、先に白ご飯だけ炊いとくかな。

なんて、家に帰ってからの自分の行動を脳内シミュレーションしていた時だった。


『–––莉子』


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