溺愛はいらない。



なんで、なんで、なんでっ…!?

走り出すときに傘を持っていた手を離したせいで、土砂降りの雨の中、私は無我夢中で走り続ける。

どうしてバレたの?!

なんで私の家の前に芯がいるの!?


信号も確認せずに大道路を横断しようとした私の右腕を、誰かに掴まれて、勢いよく後ろに引っ張られた。


『バカ!赤信号だっつの!!』

「ッ––」


私を掴んで引き寄せたのは、もちろん芯だった。

アパート前では芯も傘を指していたのに、今目の前にいる彼は私と同じようにずぶ濡れで。そんな2人の横を、勢いよく大型トラックが走り去って行った。


「〜〜っ離して!」


ハッとして、すぐさま掴まれていたままだった腕から彼の手を振り払う。

けどすぐに、今度が左手を掴まれてしまった。そして、有無を言わさずに私を引っ張って今まで走って来た道を引き返していく。


「なっ…離してってば!」

「ねぇ!」

「ねぇってば!!」


何度言っても、何度掴まれた手を振り払おうとしても、何も言わずに左手を離そうとはしない彼。

何を考えているのかわからない彼の後ろ姿が5年前見ていたものと変わらなくて、心がズキンと音を立てた。



< 6 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop