溺愛はいらない。



5年前、突然彼の前から姿を消した私。

芯は私がまだ大学2年生だった頃から付き合っていた彼氏だった。

とても優しくて、私にだけ甘くて、何より、私だけを愛してくれた人だった。

私より3つ歳の離れた彼は、私と付き合った頃にはもう就職をしていて、社会人として働いていた。

周りの子が付き合っていた同級生の彼氏とは違って会う時間も限られていたし、当日約束がドタキャンされることだってあった。


だけど、芯はできるだけ私といる時間を優先してくれたし、連絡もマメにしてくれていたから寂しいとは思わなかった。

2人きりで会えば、与えられる彼の無償の愛。

芯が初めての彼氏というわけではなかったけれど、恋を多く経験して来た訳じゃない私でも、芯は最高の彼氏だった。

私だけを見つめてくれる人。私だけを愛してくれる人。そして、私をドロドロに溶けるくらいに甘やかしたがる人だった。


『りぃを甘やかしていいのは俺だけ。』


それが、彼の口癖だった。

自分だけが私を甘やかす特権があると言って、その言葉通り、私に尽くしてくれた。

私も、そんな彼のことが好きで、大好きだった。こんなにも私だけを愛してくれた人は初めてだったから。それだけ、彼を過ごした時間は濃密で、愛に満ちていて、幸せだった。

別れるなんて、考えもしなかったあの頃。


––だけど。

案外その時は突然やって来たのだ。



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