溺愛はいらない。



それは周りが就活だと騒ぎ始めた時だった。

毎日が芯のことでいっぱいで、将来のことなんて何も考えていなかった私とは対照的に、周りの子たちはしっかりと自分の未来設計を立てていた。

どんな会社に就職して、ゆくゆく自分はどうしたいのか。

今の自分に何が必要なのか?資格か?英語力か?


そう自分に問いかけて返って来たのは、

”芯がそばにいればそれでいい”

ただそれだけだった。


周りはこんなに意志を持って就活しているのに?

就活の話の中で、自分の夢をキラキラとした瞳で熱弁する友人の隣で、私は自分の意思のなさに呆然とした。

こんなにも私は意思のない人間だった?夢を持つこともできない人間だった?

芯がいなくなったらどうするの?彼に頼っていていいの?

––私はこれからどうしていきたいの?


彼と出会う前の自分が何を考えながら生きていたのか、思い出せなかった。

その時思ったんだ。

芯のそばにいたらダメだって。

彼が好きすぎるあまり、私の世界は芯しかいなかった。芯を私からとったら、何も残らないような空虚な自分に気付いた時、私は彼から離れなきゃいけないと思ったんだ。

だけど、私は芯に面と向かって別れを切り出すことができなかった。


同棲していた部屋から自分の荷物だけを片付け、彼には何も言わず、彼のそばから離れたあの日から––5年。

芯と別れたあと、それなりに恋愛だってした。



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