ありがとうと猫
僕を撫でながら寂しそうに見つめるあなたに、
"ありがとう"と泣いた。泣き続けた。伝わるように。
じゃあね、と大きな鞄を肩に手を振るあなた。
玄関の磨り硝子越しに映るあなたを最後まで見送った僕は、
足と床がくっついたようにそこに居続けた。
あなたを失った喪失感は大きくて強くて、怖くて怖くて。
でも、あなたが幸せになるのなら、
僕はじっと耐えるよ。
次あなたが幸せに笑う顔を見るまで、
僕はここに居るから。
そう誓った僕は、
そっとその場を離れた。