嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 愛輝の部屋の中ではゴソゴソ人やら物が動くと音がし、時々愛輝の悲鳴が聞こえる。
 三十分程経つと部屋の中に静けさが戻った。


「さあ、愛輝! 魔法がかかったから大丈夫。自信を持ってゆっくり目を開けてごらん」

 祐介が優しく愛輝の両肩に手を置いた。

 愛輝は言われた通りに、ゆっくりと目を開けた。


「うわ―」

 美香の驚いた声が響く。

 愛輝は鏡に映る自分の姿を、まるで他人をみるような目で見た。


「だれ? これ?」

 と間の抜けた声を出した。

 今までのおさげ髪が、緩いウエーブが掛かり前髪を上げ、メガネを外し着けまつ毛と優しいメイクがされている。

 愛輝が着たこと事もない、ノースリーブの白いワンピースが愛輝をいつもの制服姿を変え、美しさを引き立てた。


「このワンピースは?」

 愛輝が、身に着けたワンピースの裾を軽く撮んだ。

「僕のアメリカ土産だよ。愛輝に似合うと思ってね」


「凄く似合ってる。愛輝すごく可愛い。こんな妖精みたいな子初めて見た……」

 美香の声が感動しているのか上ずっている。


「魔法が掛かったんだ…」

 愛輝がポツリとつぶやいた。


「そう、これは魔法。でも愛輝、一つだけ覚えておいて。この魔法はね、誰にでもかかる訳じゃない。心が綺麗な子だけ。自分の事だけしか考えられない醜い心を持っていると、いくらメイクで繕っても、人を引き付ける魅力は出ない。愛輝には人の心を引き寄せるような魅力が溢れている。だから、自信を持ちな……」

 祐介が愛輝に言い聞かせるように、膝に手を当て目線を同じにした。


「これ…… 本当に私なの?」

 愛輝は鏡に映る自分にもう一度目を向け、まだ信じられないでいた。


「僕はね…… アメリカで舞台のメイクの仕事をしているんだ。でも、魔法が掛かる人とそうでない人が分かってしまうんだ。だから、僕がメイクをするのは、魔法が掛かる人だけってきめている。今度は日本で仕事をしようと思って来たんだ。さあ、僕の腕を皆に見せなきゃ。就職が掛かっているんだから。さあ、行こう!」

 祐介がニコリと笑顔を見せ、手を大きく前に差し出した。

「行こうって何処へ?」

「大広間で皆が待っている」

 祐介が一歩前に進み、部屋のドアを開けた。

「そんな! 恥ずかしいよ」

 愛輝は突然の事に、体を小さく縮こませ動こうとしない。

「もう魔法がかかったんだから大丈夫! 行くよ!」

 祐介は愛輝の手を掴み部屋を出た。



 美香が、これから起こる何かを期待しているように目を輝かせ、愛輝の後ろを追いかけて来た。


 祐介が大広間の分厚いドアを開け愛輝の背中を押す。


 愛輝は仕方なく、恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。


「…… ……」
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