嘘は輝（ひかり）への道しるべ
大広間には、愛輝の父、拓真(たくま)、祐介の父正人(まさと)、愛輝の父の仕事関係者数名が一斉に愛輝の方へ目を向けた。

　しかし、誰もが愛輝を黙って見ているだけだ……　

　いや、言葉が出なかったのだ。

　愛輝は自分の姿がおかしいのだと、下を向いたその時だった。

　皆からの拍手が上がった。


「お嬢様、素晴らしいです」

　ばあやが涙ぐんで愛輝を見ている。


「こんな綺麗な子、見たことない！」

「本当に、可愛い子だよ！」


　皆が口ぐちに歓声を上げる中、愛輝の父拓真が「彩…」と小さくつぶやいた事には、誰も気が付かなかった。

　そして、祐介の父正人も懐かしく、そして悲しげな目で愛輝を見ていた。

　しかし、気持ちを切り替えたように、拓真は愛輝に歩み寄って来た。


「さすが私の娘だ。この世で一番の自慢の娘…」

　拓真は愛輝を抱きしめた。


　美香が愛輝に見つからないように、そっと祐介に近づいた事に愛輝は気付かなかった。


「ねえ、明日もう一度、愛輝にメイクしてくれない？」

　美香が祐介に言った。

「いいけど、どうして？」

「愛輝の心の中にも、魔法を掛けたいんだ……」

　美香は、何か面白い事を企んでいるかのうな輝いた目を祐介に向けた。


「どういう事？」

　祐介は、美香から理由を聞き出そうするように、きりっとした目をした。

「このままだと愛輝……　自分に自信が持てなくて、きっと、人を好きになる事から逃げちゃうと思う。愛輝は可愛くて、本当にいい子なの。だから………」

　美香は言葉を詰まらせながらも、必至で祐介に訴えた。


「分かった。愛輝の事、分かってくれてありがとう……」

　祐介の目が、嬉しそうに愛輝を見つめていた。


「いいの？」

　美香が少し不安そうな声を出した。

「あなたは信用できそうだ。　愛輝を頼んだよ…」

　祐介は手に持っていたワインの入ったグラスを傾けた。

　美香も安心した表情に変わり、ジュースの入ったグラスを傾けた。


　愛輝は、そんな美香と祐介の姿をチラリと見たが、気にもとめなかった。
　
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