嘘は輝(ひかり)への道しるべ
「……」
愛輝は、自分に言われているとは思わず美香を見てしまった。
「私じゃないよ。愛輝だよ! 凄いよ」
美香が愛輝の肩を叩いた。
「えっ。私?」
愛輝はまだピンと来ずに驚いている。
「そうよ。あなたよ」
杏子が力強く言った。
「そんな… 私ブスだし… モデルなんて…」
「世の中に、あなたをブスなんて言う人いる訳ないでしょ。自信を持ちなさい」
杏子は少し呆れたような顔をしたが、直ぐに優しくほほ笑んだ。
それまで黙っていた拓真が口を開いた。
「嫌なら無理をする事はない。愛輝を芸能界へ入れる事は、私としてはあまり賛成出来ない」
「あら? 決めるのは愛輝さんよ」
杏子は拓真を睨んだ。
口を閉ざした拓真に変わり、祐介が口を開いた。
「美香ちゃん、愛輝の付き人やらない?」
祐介が美香に目を向けた。
「えー。じゃあ、祐介さんは愛輝のモデルに賛成って事ですか?」
美香の言葉と同様に愛輝も気になり答えを求めるように祐介の顔を見た。
「僕は、愛輝には挑戦してみる事が大事じゃないかなと思う。この仕事をきっかけに、愛輝が自信を持ってやりたい事を見つけられたらと思っている」
祐介の言葉は、愛輝を心の底から心配しているような重みがあり、どこからその想いが来ているのか分からないのだが……
「私、付き人やります。愛輝モデルやりなよ」
美香の目がキラキラして、愛輝を説得しているように見える。
美香がこの時、どれほどの重みを感じていたのかは分からないが、愛輝には、美香に大きく背中を押されたような気がした。
「急に言われても… 私に出来るのかな?」
「何でもやって見なきゃ分からないよ。やってダメならその時でしょ!」
美香がじっと愛輝の目を見た。
美香の本気の目だ…。
愛輝はしばらく、窓の外に目をやりながら考えた。
何も出来ないままの自分ではいけない事は分かっていた。
「私、やってみようかな?」
愛輝は、ぼそっと口にした。
「愛輝、挑戦するなら料理とスポーツとか、他にいくらでもあるだろう?」
拓真が渋い顔をして言った。
「私、祐介さんにメイクしてもらうと、なんか自分が変われそうな気がするの。自信が持てるって言うか… やってみるわ」
愛輝の目が、まるで楽しい事を見つけたかのよに輝いた。
拓真は腕を組み考えていたが、大きくため息を着いた。
「愛輝、仕事をすると言う事は、簡単な気持ちじゃ勤まらない。ましてや、芸能界となると、厳しい事や、辛い事だってある。愛輝が思っているような、華やかな世界じゃないんだ。本当に覚悟が出来るかもう一度考えなさい。半端な気持ちじゃ皆に迷惑をかける事になるだけだ」
拓真が初めて愛輝に向けた、厳しい言葉だった。
愛輝は、拓真の言葉をもう一度胸の中で、ゆっくりと繰り返した。
今まで、自分で何かをやってみょうと思った事があっただろうか?
祐介の掛けててくれる魔法があれば、自分が変われる気がした。
「パパ! 私、やってみるわ」
愛輝は、拓真の目を真直ぐに見た。