嘘は輝(ひかり)への道しるべ
親友への道しるべ
 二年前…


 三階の教室の窓際の席から見えるグラウンドには、五月の終わりに高校総体を控えた運動部の生徒達が、熱心に練習する声が響き渡っていた。


 紫芝愛輝(ししばあき)高校三年生。
 黒いおさげ髪にピンク色の縁のメガネを掛け、他の女子から見るとおしゃれに縁がなく、真面目で面白くないという印象を受けるのか、声を掛けくる友達もあまり居なかった。

 愛輝は運動部などには縁が無く、窓際の自分の席からサッカー部の練習に目を向けていた。

 スマホのイヤホンからは、今人気のミュージシャン川島(かわしま)リョウの『嘘』が流れている。
 愛輝はこの歌詞に何故か惹かれ、ほぼ毎日のように耳にしていた。



「今日部活休みだって、愛輝一緒にかえろう!」

 突然後ろから声を掛けてきたのは、愛輝のただ一人の友人、山内美香(やまうちみか)だ。


「美香ちゃん……

 愛輝はイヤホンを外し、少し驚いたような顔で美香を見た。

 部活が忙しい美香とは,最近一緒に帰る事が無かったからだ。


 美香はグラウンドに目をやり、

「サッカー部ねえ。愛輝は誰が好きなの?」

「別にそう言う訳じゃあ……」

 愛輝は口ごもりながら、鞄に手をかけ帰り支度を始めた。


「拓海(たくみ)? まあ、あいつ女の子にもてるからね」


グラウンドの周りには、制服を着た女子生徒達が、拓海がボールを蹴る度に「キャーキャー」と歓声を上げていた。


「いいのよ、別に私は遠くから見ているだけで… 私のことなんて名前どころか存在だって知らないと思うわ」

「ふーん。告白しちゃえばいいのに」

 美香の言葉に愛輝は顔を真っ赤にして、

「冗談はやめてよ、美香ちゃんみたいに、美人で頭も良くて、その上スポーツ万能なら考えたかもしれないけど…」

 愛輝は思わずため息を漏らした。


「そんなもんかね。愛輝は十分可愛いと思うよ。私の大事な親友!」

 美香は愛輝のクビに抱きついた。


「もう、美香ちゃん重いよ! お待たせ。帰ろう!」



 愛輝と美香の、どこにでもある、ごく普通の女子高生の光景だった。


 しかし、二人の会話を教室の入り口の影から、クラスで一番目立つリーダ的存在の梨花子が見ていた事には気付かなかった。

 梨花子はニヤリと嫌な笑みを浮かべ、廊下を去って行った。


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