嘘は輝（ひかり）への道しるべ

　その日は朝から雑誌の撮影が入っていた。

　寒空での撮影も順調に終わり控室に戻ると、美香が血相を変えて愛輝の元へ走って来た。


「愛輝大変！　おじさん怪我して救急車で運ばれたって。早く支度して！」

　美香の青ざめた顔が、愛輝を一気に不安に落とした。


「えっ！　パパが…」

　愛輝の体は凍りつき、直ぐには動けなかった。


　素早く祐介が愛輝のメイクを落としてくれるが、愛輝の胸は不安に押し潰されそうだ。

　美香と祐介に背中を押されるように、愛輝は病院に向かい走り出した。


　
　病室のドアの前で息を切らしながら、愛輝は恐る恐るドアを開けた。

　病室のベットの上には、包帯で巻かれた白い足が見える。

「パパ！」

　愛輝が声を上げてベッドに駆け寄った。


「やあ、愛輝。美香ちゃんに祐介君まで来てくれたのか？」

　拓真は、元気よく笑って言った。


「パパが怪我して、救急車で運ばれたっていうから…」

　愛輝はまだ事態が把握出来ずにいた。


「そうなんだよ。今日は朝一でゴルフでねぇ。寒かったせいかボールが思うように飛ばなくてね。池ギリギリのボールを打ったら、そのままボチャーンって落ちちゃって…　落ち方悪くて足の骨が折れたみたいでねえ。しばらく入院だって。参ったなあ。あははっ」

　拓真は恥ずかしそうに頭に手を当てた。


「パパ！　笑いごとじゃないよ。心配したんだから！」

　三人はその場にへなへなと座り込んだ。


「僕はてっきり事故にでも遭ったのかと思ったよ…」

　祐介が息を着くと、心配したとばかりに言った。


「おじさん、ゴルフで池に落ちたなんて…　想像すると笑えるけど、たいした事なくてよかった…」

　美香が明らかに笑いをこらえている。


「悪かったね……　心配かけて。でも一か月は入院でリハビリとか大変らしいよ。大怪我だから！」

　拓真は少々自慢気になっている。

　三人は、安心したのと拓真の笑顔に少し苛立ちを感じ、冷ややかな視線を送った。


「僕、まだ仕事残っているから行くよ…」

　祐介が立ち上がった。


「えっ。何処の仕事？」

　美香が興味あり気な目を大きく開いた。


「事務所のモデルのオーデションがあるんだ。おじさん、又来るよ」

　祐介が、片手を拓真に向けて上げた。


「ねえ、私も行っていい？」

　美香が伺うような目を祐介に向けた。


「ああ、勿論」

　祐介が即座に答えると、

「おじさんお大事に！」

　美香は手を振って行ってしまった。


　愛輝は二人が行ってしまうと、なんだか力が抜けてしまった。


「私、喉乾いちゃった。飲み物買ってくる」

　愛輝が病室の入り口に向かった。

「愛輝、悪いな…　着替えとか家から持って来てもらいたい物があるんだが…」

　拓真がしおらしく言った。

「分かった。取り行ってくるわ」

　愛輝は、気持ちを切り替え優しい笑顔を、ベッド上で少し悲しそうな目の拓真に向けた。

「すまない…　一人じゃ寂しい…　早く戻って来てくれよ」

　　拓真が甘えた声で、ベッドから愛輝を見送った。

　愛輝は小さなため息を着いた。