嘘は輝(ひかり)への道しるべ
愛輝は、明るい温かみある木目調の壁とテーブルが置かれた談話室に並ぶ、自動販売機からペットボトルのお茶を買った。
隣の自動販売機で車椅子に乗った少女が、取り出し口からジュースを取ろうと手を伸ばした。
その瞬間、少女の膝の上にあった、ノートと教科書らしきものがバサッと床に落ちた。
愛輝はすぐに拾い上げ、近くのテーブルの上に置いた。
「ここでいいかな?」
愛輝が少女に声をかけた。
「すみません… ありがとうございます」
少女は車いすを動かしテーブルまで近づいて来た。
肩までの黒髪に、色の白い可愛らしい笑顔が印象的な少女だった。
「私も一緒に座っていい?」
愛輝がニコリと笑顔をみせると
「勿論。どうぞ」
少女は嬉しそうに、車椅子のブレーキに手を掛けた。
「何年生?」
愛輝は椅子に座り、ペットボトルの蓋を開けながら尋ねた。
「中学二年です。思ったより入院が長引きそうで、勉強ついて行けるか心配で…」
少女は不安そうな表情でテーブルの上の教科書へ目を向けた。
「見てもいい?」
「どうぞ」
「あ―。ちょっと厄介な所よね」
愛輝は数学の教科書の付箋の付いているページを広げた。
「もう、いくら参考書読んでもさっぱり分からなくて」
少女は眉間に皺を寄せ困った顔をした。
「これはね… 先にこっちを解くのよ。その後、この計算式に当てはめるのよ」
愛輝は教科書を少女の方へ向け、指を指しながら説明した。
「あ―。そっかあ… お姉さん凄い!」
少女は両手を合わせて目を丸くした。
「私、紫芝愛輝、高校三年生よろしくね」
愛輝は、優しくほほ笑んだ。
「私、木崎(きざき)のどか。愛輝さんは誰かのお見舞い?」
「うん。パパが怪我してね……」
愛輝は、軽くため息を着いた。
「大変ですね……」
のどかが、心配そうに愛輝を見た。
「ううん。ゴルフで転んだだけだから」
愛輝は、のどかを安心させるように、明るく呆れたように言った。
「それなら直ぐ良くなりますね… 私はもうずっと歩けないまま… 小さな時、階段から落ちて… でも、こんど有名なお医者さんがアメリカから来るみたいで、もしかしたら手術出来るかもしれなくて。その為に検査入院しているんです」
のどかの表情に、幼い頃からの辛い思いを感じると、愛輝は自分の父親の不注意な怪我が贅沢に思えた。
「そうなの… 頑張っているんだね。手術出来るように、私も祈っているわ」
愛輝は心からそう思った。
のどかの目が、少し潤んだ気がしたが、直ぐに明るい声に変わった。
「ありがとう、愛輝さん。それでね、まだ分からない問題あるんだけど、教えてくれますか?」
のどかが、両手を合わせて愛輝を見た。
「いいわよ。 数学と英語なら任せておいて!」
愛輝はグッと姿勢を伸ばし、のどかの方へ体を向けた。
のどかは、愛輝の説明を聞きくと、すらすらと問題を解いて行く。
のどかの理解力の高さに、きっと学校で勉強したいのだろうと、のどかの真剣な顔を見ながら愛輝は思った。
何の努力もせず、当たり前に歩き、当たり前に学校で勉強をしてきた愛輝には、まだ中学生ののどかに、生きて行くという力強い意志のような物を感じた。
二人は数学の課題に真剣になってしまい、時間の経つのをすっかり忘れていた。
「のどか! ここに居たのか…」
突然、談話室の入り口から聞こえた男の人の声に、愛輝は振り向いた。
隣の自動販売機で車椅子に乗った少女が、取り出し口からジュースを取ろうと手を伸ばした。
その瞬間、少女の膝の上にあった、ノートと教科書らしきものがバサッと床に落ちた。
愛輝はすぐに拾い上げ、近くのテーブルの上に置いた。
「ここでいいかな?」
愛輝が少女に声をかけた。
「すみません… ありがとうございます」
少女は車いすを動かしテーブルまで近づいて来た。
肩までの黒髪に、色の白い可愛らしい笑顔が印象的な少女だった。
「私も一緒に座っていい?」
愛輝がニコリと笑顔をみせると
「勿論。どうぞ」
少女は嬉しそうに、車椅子のブレーキに手を掛けた。
「何年生?」
愛輝は椅子に座り、ペットボトルの蓋を開けながら尋ねた。
「中学二年です。思ったより入院が長引きそうで、勉強ついて行けるか心配で…」
少女は不安そうな表情でテーブルの上の教科書へ目を向けた。
「見てもいい?」
「どうぞ」
「あ―。ちょっと厄介な所よね」
愛輝は数学の教科書の付箋の付いているページを広げた。
「もう、いくら参考書読んでもさっぱり分からなくて」
少女は眉間に皺を寄せ困った顔をした。
「これはね… 先にこっちを解くのよ。その後、この計算式に当てはめるのよ」
愛輝は教科書を少女の方へ向け、指を指しながら説明した。
「あ―。そっかあ… お姉さん凄い!」
少女は両手を合わせて目を丸くした。
「私、紫芝愛輝、高校三年生よろしくね」
愛輝は、優しくほほ笑んだ。
「私、木崎(きざき)のどか。愛輝さんは誰かのお見舞い?」
「うん。パパが怪我してね……」
愛輝は、軽くため息を着いた。
「大変ですね……」
のどかが、心配そうに愛輝を見た。
「ううん。ゴルフで転んだだけだから」
愛輝は、のどかを安心させるように、明るく呆れたように言った。
「それなら直ぐ良くなりますね… 私はもうずっと歩けないまま… 小さな時、階段から落ちて… でも、こんど有名なお医者さんがアメリカから来るみたいで、もしかしたら手術出来るかもしれなくて。その為に検査入院しているんです」
のどかの表情に、幼い頃からの辛い思いを感じると、愛輝は自分の父親の不注意な怪我が贅沢に思えた。
「そうなの… 頑張っているんだね。手術出来るように、私も祈っているわ」
愛輝は心からそう思った。
のどかの目が、少し潤んだ気がしたが、直ぐに明るい声に変わった。
「ありがとう、愛輝さん。それでね、まだ分からない問題あるんだけど、教えてくれますか?」
のどかが、両手を合わせて愛輝を見た。
「いいわよ。 数学と英語なら任せておいて!」
愛輝はグッと姿勢を伸ばし、のどかの方へ体を向けた。
のどかは、愛輝の説明を聞きくと、すらすらと問題を解いて行く。
のどかの理解力の高さに、きっと学校で勉強したいのだろうと、のどかの真剣な顔を見ながら愛輝は思った。
何の努力もせず、当たり前に歩き、当たり前に学校で勉強をしてきた愛輝には、まだ中学生ののどかに、生きて行くという力強い意志のような物を感じた。
二人は数学の課題に真剣になってしまい、時間の経つのをすっかり忘れていた。
「のどか! ここに居たのか…」
突然、談話室の入り口から聞こえた男の人の声に、愛輝は振り向いた。