嘘は輝(ひかり)への道しるべ
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 真二は、のどかの病室に戻ると、車椅子からベッドに移るのどかに向かい、つい声を荒げてしまった。

「俺の仕事の話は、人にするなって言ってあるだろう!」

 真二は少しきつくのどかを睨んだ。


「ごめん…」

 のどかは小さな声で謝った。


 申し訳なさそうに下を向くのどかに、少し言い過ぎたような気がして、声のトーンを少し落とし穏やかに声を変えた。


「だけど… お前が、俺の事を人に話すなんて珍しいな…」


「うん…… 愛輝さんなら話してもいいかなって思ったの… 私にね、『頑張っているね』って言ってくれたの…… 他の人はみんな、頑張れ!とが、絶対大丈夫! なんて無責任な事ばっかり言うの。私、頑張っているのに… 手術だって出来るかどうかも分からないのに、絶対大丈夫なんて気安く言わないで欲しいの! でも愛輝さん、祈っているって…… 嬉しかった……」

 ベッドに腰を掛け自分の足をじっと見つめる、のどかの目には涙が滲んでいた。


「そうか…」

 真二にはのどかの気持ちが痛いほど分かる。

 どれほど愛輝の言葉が嬉しかったのか……


 真二は、ベッドに座っているのどかの隣に座り、のどかの頭を優しく撫でた。


「それにしても、えらく楽しそうに勉強していたな」


「うん、だってすごく楽しいんだもん。愛輝さん頭いいんだよ」

 のどかが、笑顔で愛輝の話をしはじめた。

 真二は入院中には見せないのどかの笑顔に、少しほっとした。

 そして、何故か愛輝の『嘘』の話が頭から離れなかった。

 嘘は川島リョウのヒット曲と知られ、絶賛されることには慣れていたはずなのに、何故、愛輝の言葉に苛立ってしまったのだろうか? 胸の中の深い部分がチクリと痛んだ……


 ベッドから立ち上がり、病室の窓から外を見ると、愛輝の帰る後ろ姿が目に入った。

 すると、愛輝が振り向き病院の方を見上げた。

 その視線は、談話室の方に向いていたが、ゆっくりと病室の方へ向けられた。


 一瞬目があった気がしたが…… 


 気のせいであろう……


 

 真二は仕事が早く終わると、必ずのどかの病院に顔を出すようにしていた。

 病院の入り口を抜けると、庭のベンチに愛輝とのどかの姿を見つけた。


 ベンチに座った愛輝が、車椅子ののどかと向き合うように勉強を教えている。


 真二は二人に近づいて行ったが、愛輝とのどかの大きな笑い声が響き、真二が来た事に気が付かないようだ。

 二人の楽しそうな笑顔に、真二は声を掛ける事をためらい、少し離れたベンチに腰を下ろした。


 ケースからギターをだし、小さな音でメロディーを探すように弦に触れた。

 愛輝の笑い声を遠くで感じながら、少し冷たい風に音を合わせた……
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