嘘は輝（ひかり）への道しるべ

　愛輝は拓真の見舞いを理由に、のどかに勉強を教えるのを楽しみにしていた。

　最近は愛輝でいるより、ヒカリでいる時間の方が長くなっている事に少し疲れを感じていた。
　愛輝として誰かと過ごす時間にほっとする。

　そして、時々一緒になる真二のギターを弾く姿に胸を高鳴らせていた。



　愛輝が拓真の病室に入ると、拓真が元気なくベッドに腰をかけていた。

「パパどうしたの？　今日は元気ないみたいだけど…」


「それが、骨の具合があまり良くないらしくて、手術になるそうだ…　入院が少し長引くらしい……」

　拓真が、がっくりと肩を落とした。
「ええっ！」

　愛輝は声を上げた。

　しかし、驚いた理由は拓真の手術の事では無い。

　拓真が退院してしまったたら、愛輝は病院へ来る理由が無くなってしまう事に気が付いたのだ。
　のどかに勉強を教える事も出来ないが、真二に会う事も無くなってしまう。


「そうだよなぁ。愛輝だって寂しいよな…　もうすぐ退院だと思ったのに…　愛輝にばかり心配かけてすまないな…」

　拓真は愛輝が自分の事を心配していると思い、涙目を手で押さえた。


「退院出来ると思っていたのに…　パパが居ないと寂しいわ。で、どの位の入院長引くの？」


　愛輝は少し後ろめたさを感じて、つい大げさに言ってしまった。


「手術は来週末になるそうだが、その後リハビリとかで一か月近くかかるらしい…」


「そう…　一か月か…」

　愛輝は、思わずため息を着いた。
　勿論、短いと思うため息だ。


「長いよな…　ごめん」

　拓真が、切なそうな目で愛輝を見た。


「でも、祐介さんも居てくれるし。ばあやも佐々木さんも居るから大丈夫よ」

　愛輝は色々な意味を込めて、拓真の心配を和らげようとしてみた。


「なるべく早く退院出来るように、パパ頑張るから！」

　しかし、拓真は力強く気合を入れ、退院に向けて頑張るようだ……



「うん」

　愛輝は笑顔を見せ、気持ちを悟られる前に病室を出た。


　愛輝は、のどかの病室へと向いながら、今まで気が付かなかった真二との事を考えていた。

　いつまでも、こんな時間が続く訳じゃないのだと……　


　まるで、かかっていた魔法が解けてしまうような、悲しみと不安が目の前に現れた。