嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 ミュージックビデオ撮影の日が来た。

 愛輝はヒカリに変わり撮影スタジオへと向かった。

 あの『嘘』を作詞作曲した川島リョウという男が、どんな人なのか興味と期待に胸が膨らんでいた。

 ヒカリは美香の後に続き、撮影スタジオの中へ入った。

 一斉にスタッフがヒカリへ目を向けた。


「おはようございます。ヒカリです。よろしくお願いします」

 ヒカリの声に、スタッフが我に返ったように、あちらこちらから「おはようございます」と声が上がった。

 初めて見るヒカリの美しさに、あいさつすら忘れたのだ。


「はじめまして、川島リョウです。今回はこの仕事を引き受けて下さって、本当に感謝しています」

 リョウが紳士的なあいさつをし、ヒカリに手を差し出した。

 テレビで観る姿と同様、切れ長のきれいな顔に、優しい甘い声が魅力的だ。


「こんな素敵なお仕事させて頂けて、私も凄く嬉しいです。私、初めてのビデオ撮影で、ご迷惑おかけしするかもしれませんが、よろしくお願いします」

 ヒカリも手を差し出し二人は握手を交わした。


「そんな、僕だって慣れている訳じゃないので…… 迷惑かけるのは僕の方ですよ」

 真二も恐縮して言った。

 そんな、ふたりのやり取りが、周りにいたスタッフのヒカリへの好感度を上げた。


 ヒカリが辺りを見回すと、バンドのメンバーらしき人達が固まって、ヒカリの方を見ている。
 その中には真二も居た。

 ヒカリはメンバーの方へ向かって頭を下げ笑顔を見せた。
 メンバーが慌てて頭を下げ、ヒカリと目が会った事に興奮していた。


「それでは打ち合わせはじめます」

 スタッフの一人が、ヒカリの元へやって来た。


 好きになってはいけない二人が出会ってしまい、別れの時が来るというストーリーらしい。
 リョウの声に振り向いたヒカリの目から涙が落ちる、と言うシーンがメインになるとの事だ。

「いざとなったら、目薬あるから任せな」
 祐介がヒカリの緊張をほぐしてくれる。

 お蔭で、愛輝の緊張も少し和らいだ。


「それじゃあ一度曲を聞いて、イメージ掴んでもらえますか?」

 スタッフがヒカリに言った。


「はい」

 ヒカリは、明るく返事をした。

 どんな曲なのか、ずっと楽しみにしていた愛輝の胸が弾んだ。


 スピーカーから流れ出した音と共に、ヒカリの手に歌詞カードが渡された。

 『届かない涙』と書かれていた…… 


 
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