嘘は輝(ひかり)への道しるべ
「ちょっと―。美香ちゃん、私こんな格好なんだから!」

 愛輝は、布団を顔まで被り目だけをのぞかせた。


「美香様、お待ち下さいと申し上げましたのに……」

 ばあやが、あたふたしている。


「いいのよ、お見舞いに来たんだから… 着替えて化粧する必要ないでしょ」

 美香が、愛輝の布団を引っ張りながら言った。

「やめてよ! スッピンなんだから」


「あははっ。 ヒカリじゃないんだから、気にする事ないじゃない?」


「そういう事じゃなくて!」

 愛輝は、真二の顔をチラリと見た。


「お茶を入れて参りますね」

 ばあやがニコニコしながら部屋を出て行った。


「急に休みになったからさ、久ぶりに映画見てショッピングしていたんだけど、愛輝の様子が気になって来てみたのよ。そしたら、この人が家の門の前でウロウロしていたから連れて来たのよ」

 美香は真二を指さした。


「あまりにでかい家で、さすがに入っていいものか迷ったよ。でも、夕べの事が気になって、メールしたけど返事無いし……」

 真二がふう―っとため息を着いた。

「あっ。スマホ、クローゼットの鞄に入ったままだ…… ごめん……」


「夕べは色々あったみたいね。祐介さん凄く心配して、私の所に来てないかって電話してきたのよ。まあ、愛輝にも私以外に頼れる人が居て安心したけどね。でも、彼の居所を探すのに苦労したんだからね!」

 美香が腕を組んで、愛輝を睨んだ。


「ごめんね。美香ちゃんにも心配かけちゃって…… 私……」


「祐介さんから話は聞いたわ…… でも、愛輝は愛輝よ! 何も変わらないじゃない?」


「ほら、俺と同じ事言っているじゃないか」

 真二が得意げに言った。


「えっ―。同じ事いっちゃったの?」

 美香の不服そうな声に三人は、声を出して笑った。


 部屋のドアがノックされ、ばあやが紅茶とガラスの器に入ったフルーゼリーを、テーブルの上に用意した。


「どうぞごゆっくり」

 ばあやは頭を下げると、愛輝の分の紅茶とゼリーをベッドの横のテーブルに置いた。


「なかなかいい男ですな……」

 ばあやは小さな声で愛輝にささやくと、ニコリと笑い部屋を出て行った。


「何か食う物まで、高級に見えるわ」

 真二がソファーに座り、紅茶を口にした。


「私なんか、もう慣れちゃったわ…… 最近、自分の家にいるより、ここに居る方が長いのよね」

 美香が、スプーンでゼリーを口に入れ、満足そうな表情をした。


「ねえ…… 美香ちゃんもしかして、私と祐介さんとの事を知っていたの?」

 愛輝は、あまり驚いていない美香が気になり、思い切って聞いてみた。


「う―ん、なんとなくねぇ…… 祐介さんの愛輝に対する態度が、ちょっと普通と違うから気になっていたの…… それに、愛輝と祐介さんて同じ真っ直ぐな目をするんだよね…… まあ、祐介さんの方が鋭い感じだけどね。

 だから、何かあるのかなって思っていたけど、愛輝が知らない事を、私が探る必要は無いし…… いつか、きっと分かる時が来る気がしていたから……」

 美香は、すらすらと何でもない事のように言った。


「すごい…… 美香ちゃんは、何でも見透かしちゃうんだ……」


「まさか。大好きな愛輝と祐介さんの事だから、観察力が上がっただけよ」

 美香は、かたを竦めて言った。


 その時、外から車が入って来る音がし、美香が窓を覗くように立ち上がった。
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