嘘は輝(ひかり)への道しるべ
「ヒカリ…… って、もしかしてこの前、真二さんが一緒に居た彼女なの?」

 あゆみが驚いた表情で真二の前に立ち止まった。


「どうしてそこに?」


「真二さんの後を付けてきたら、ヒカリさんと話しているのが聞こえて… 真二さんがどうしてあんな冴えない子と付き合っているのか不思議だったのよね、これで納得出来たわ…」


「君には関係の無い事だ……」

 真二は、あゆみの言葉を無視しようとしたが……


「そうかしら? 面白い事、知っちゃたなぁ」

 あゆみは、意味あり気な笑みを浮かべた。


「おい! 絶対言うなよ!」

 真二は険しい顔で、あゆみに近づいた。


「言う訳ないじゃない。私だって真二さんが好きなんだから! 好きな人を困らせたりしないわ」


「えっ」

 真二は嫌な予感に表情を曇らせ、あゆみを冷ややかに見た。


「その代わりに条件があるの! ヒカリさんとは別れて! 別れないって言うなら、ヒカリさんの事マスコミにバラすわ」


「そんな事をしても、俺の気持ちは変わらないよ!」

 真二は冷たくきっぱりと言った。


「もし、ヒカリがメイクで誤魔化されたブスだって世間が知ったら、おもしろおかしく噂が広がるでしょうね。ヒカリの一生は終わりよ! リョウのアルバムの売り上げにも響くかもしれないわね。真二さん妹の手術で、お金が必要だってリョウから聞いているわ。困るわよね?」

 あゆみは勝ち誇った笑みで真二を見た。


「そんな事出来る訳ないだろう!」

 真二は呆れたように言ったのだが……


「あら、私を子供だと思ってバカにしないで。事務所は十七歳で売り出すつもりだけど、私二十歳過ぎているのよ。アイドルで売るにはラストチャンスなの。私は本気よ!

 私がヒカリの事実を公表したら、デビューのいい話題になるかも? 真二さんが私の事を好きになってくれないのなら、私はヒカリを踏み台にしてトップに立つわ! よく、考えてみて… それじゃあね」


 あゆみは、今までの可愛らしい姿から一転し、気高い女性の後ろ姿で歩き去った。


 もしかして、脅しているだけかもしれない…… 

 あんな小娘に出来る事なんて知れているとは思いながらも、この時代、ネットで騒ぎになればあっという間に噂は広がり、取り返しのつかない事になる……


「くっそ―」

 真二は自分の愚かさに頭に来て、飲みかけのコーヒーの缶をゴミ箱に投げつけた。



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