嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 その日は、愛輝の所属している、ボランティア同好会の週に一回の活動があった。

 今日は近くの保育園へボランティアに行く予定だ。

 集合時間まで後数分しかなく、愛輝は階段を一気に駆け下りた。
 最後の一段を下り廊下へ出た瞬間、誰かとぶつかり尻もちをつてしまった。

 慌てて愛輝は「すみせん」とあやまり立ち上がろうと壁に手をつくと、ぶつかった相手の手が差し出された。


 顔を上げると、「ごめん」と謝ったのは拓海だった。

 拓海は愛輝の手を掴み引き上げると、

 「大丈夫? 怪我しなかった?」

 心配そうな顔を向けた。

 「大丈夫です」と愛輝は言うと、慌ててその場を走り去った。

 胸がドキドキして、顔がほてっているのが分かった。
 きちんと謝るべきだったと、後で冷静になると自分の勇気の無さに後悔した。 

  
 次の日の放課後、愛輝が廊下を歩いていると後ろからかけられた声に足が止まった。

「昨日は大丈夫だった? A組の紫芝さんでしょ?」

 振り向くと、拓海が愛輝を見て立っていた。


「あっ。はい…… 何で私の名前知っているんですか?」

 愛輝は小さな声で恐る恐る聞いた。


「そりゃ、同じ学年だから名前くらいは知っているよ。おれは気賀沢拓海、C組。宜しく」

 それだけ言うと、拓海は走り去って行ってしまった。


 それから、拓海は時々愛輝に声を掛けてくるようになった。

 愛輝の心は、どんどんと拓海に惹かれていた。


< 6 / 101 >

この作品をシェア

pagetop