嘘は輝(ひかり)への道しるべ
******
 
 真二は、もうすぐ始まるコンサートツアーに向けて準備に追われていた。

 バンドの練習が終わりスタジオ出ると、すでに辺り真っ暗になっていた。
 真二はポケットからスマホをだし、愛輝からの最後の着信を黙って見つめた。


 駐車場に停めてある車の前に、人影が動いた。


「ちょっといいか?」

 姿を現し、声を掛けてきたのは祐介だった。


「ああ……」

 真二は、一瞬驚いて祐介を見たが素直に肯いた。

 

 真二は、一軒のバーへと入って行く祐介の後に続いた。

 落ち着いた店のカウンターには、二入以外誰も居ない。
 バーテンが水割りを二人の前に置くと、奥へと姿を消した。


「仕事忙しいのか?」

 祐介が口を開いた。


「ええ。ツアーの前なので…… 話って、愛輝の事ですか?」

 真二が予測していたかのように、静かに言った。


「ああ。愛輝と別れたそうだな? いい加減な気持ちなら別れてもらった方がいい」


「愛輝の事は本気だ。でも今はダメなんです」

 真二は水割りのグラスを口に運んだ。


「あゆみって子が、ヒカリの事を知っていたんだが、その事と関係あるのか?」
 
 祐介は真二の方へ目を向けずに、片手で水割りのグラスを回した。


「えっ! どうしてそれを?」

 真二の表情は強張り、祐介を見た。

 祐介のグラスから、カランと氷が崩れる音が響く。


「愛輝に、お前が教えてくれたって言ったらしい」


「そんな…… なんであいつ!」

 真二が悔しそうに拳を握った。


「どういう事か話してくれないか? 兄として、愛輝を守りたい気持ちはお前と同じだ」



 真二は、ため息を着くと水割りを一口飲み、覚悟を決めたように祐介の方へ目を向けた。


< 63 / 101 >

この作品をシェア

pagetop