嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 拓海と思ったより話し込んでしまい、愛輝はバスを降りると病院までの道を走った。

 病室のドアを開けると、「待ってなのよ。遅かったじゃない」とのどかが膨れて声を上げた。


「こらのどか! 愛輝さんだって忙しいのにわざわざ来て下さったんじゃないか。すみません愛輝さん。のどかの父です」

 スラリと背の高い渋い顔の男性が頭を下げた。


「すみません遅くなって。羽柴愛輝です」

 愛輝も頭を下げた。


「愛輝さん、愛輝さんと、のどかがうるさくて」

 のどかの父が頭に手をやった。


「あら、私だけじゃないわよ。お兄ちゃんだってお世話になっているのよ」

 のどかが、父に向かっていたずらっぽく口元をニヤリとさせた。



「えっ! 真二が…… そうでしたか、あいつ何も言わないもので…… こんな素敵なお嬢さんと……」


「いえ、そんな…… 私の方が……」

 愛輝は言葉に詰まってしまった。
 

 まるで、話の流れを変えるように、愛輝は慌てて鞄からピンク包みを出し、のどかの手の上に置いた。


「これ、お見舞いよ」


「わー。何だろう?」

 のどかが嬉しそうに包を開いた。

 包の中から色とりどりのソックスが何足も出て来た。


「歩けるようになったら、沢山欲しいでしょ?」


「ありがとう愛輝さん。これ履けるようにがんばる!」

 のどかは楽しそうに、一つ筒ソックスの柄や長さを確かめた。


 愛輝はのどかと他愛も無い話をして過ごした。

 二人の姿を、のどかの父が優しい瞳で、見守っている。

 その瞳が真二によく似ていて、愛輝を少し切なくさせた。


「そろそろ帰るわね」

 愛輝が鞄を手にして立ち上がった。


「えっ。もう……」

 のどかが、残念そうな顔で愛輝を見た。


「明日手術でしょ。早く休んだ方がいいわ。明日は来られないけれど、成功を祈っている……」

 愛輝が優しくのどかの手を包んだ。


「うん。ありがとう」

 のどかは力強く肯いた。


 
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