嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 のどかの父から手術の報告を受けたのは、手術終了予定時間より少し前だった。

 リハビリは大変だが、春には歩けるようになるだろうとの話に、愛輝の胸は嬉しさでいっぱいになった。
 きっと真二も同じ気持ちでいると思うと、愛輝はのどかの歩く姿が楽しみで仕方なかった。

 真二が父親に愛輝に伝えてくれと頼んだ事を、知ったのはだいぶ後の事だ。



 事務所の社長に呼ばれ、愛輝と美香は社長室へ向かった。
 社長の杏子はマネージャーの原田と共に待っていた。


「ヒカリ頑張っているわね。今一番乗っている時ね」

 杏子が笑顔で言った。


「はい。ありがとうございます」

 愛輝が答える。


「でもいつまでもこんな訳には行かないわよ。映画にドラマ、歌に舞台、それからバラエティ番組まで依頼が来ているわ。モデルだけではこれ以上は無理よ。新な方向性を決めなくては……」


「ええ… でも私、お芝居とか歌なんて自信がないです」

 愛輝は、思わず不安な言葉がでてしまった。


「勿論分かっているわ。ようは売り方次第なの。ただ、いつまでも正体不明って訳には行かなわね。そうなるとヒカリだけでなく愛輝の力も必要って事になるわね」

 京子が社長として、厳しい言葉を向けたのだと分かった。


「……」

 愛輝は返事が出来なかった。


「よく考えて返事をちょうだい。ヒカリがどうするか? 美香もこれからの事考えておいてね」

 杏子は凛々しい社長の構えで、愛輝と美香を交互に見た。



 愛輝は拓海に言われた、自分の将来と言う言葉を考えていた。
 自分は一体何をしたいのか? 

 ヒカリが愛輝だと分かれば、自分が愛輝ではなくヒカリになってしまうのでは無いだろうか? 
 決して芸能界が嫌いな訳では無いが、このまま芸能界で生きて行っていいのだろうか?


「愛輝、どうしようか?」

 美香が、両腕を高く伸ばして明るい声で言った。


「美香ちゃんは将来どうするか考えているの?」


「うん勿論。私、結構この世界好きよ。才能のある子見つけてデビューさせるの。私、分かるんだよね、この子輝くなって感がするの」

 美香はキラキラと目を輝かせていた。


「へえ―。凄いね。ちゃんと考えているんだ。私だけ、ぼっーとして居たのかな?」

 愛輝の声が沈んだ。


「何言っているのよ。愛輝は今まで最高の仕事して来たじゃない。人は人生を選択しなきゃならない時があるのよ。愛輝は前よりずっと強く、凛々しくなった。必ず納得できる答えが出せるよ。
 私はどんな答えでも、愛輝の見方だから!」

 美香は力強く愛輝の背中を叩いた。



 出来る事なら真二に相談したい。

 しかし、真二からの連絡はまだ無い。
 真二に会いたかった。

 真二は今、どんな気持ちでいるのだろう? 
 愛輝の事をたまには思い出してくれるのだろうか? 

 愛輝の胸は寂しさで一杯になった。
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