鎌倉ごちそう迷路
トンビにサンドイッチ
プロローグ
人生って、うまくいかない。
ひとことで言ってしまうと、それだ。
私は二十六歳にして、すでに悟ってしまった。
たとえば、赤信号で足止めをくらってイライラ。ようやく青に変わって、横断歩道をダッシュで駅へ駆け込んだら、今度は鼻先で電車のドアが閉まってしまう。
人生って、いっつも、そう。
自分なりにこだわって、頑張っているつもりなのに、努力はいつも空回り。全力で走っているつもりなのに、まるきり前に進まない。
トレッドミルってわかるかな? よくスポーツジムなんかで、ランニングするのに使う機械のこと。距離の短いベルトコンベアみたいなマシンが、進みたい方向とは逆回転で回る。そうなると私の歩みはまるで、その場で足踏みしているのと同じになってしまう。
ゆっくり歩き始めていたはずなのに、気がつけばぐんと速度の上がったトレッドミルでよろけて倒れそうになる。
でも……それって、もしかして私だけなの?
電車に乗りそこねて、約束の時刻に間に合わない。他のみんなはちゃんとできているのに、私ひとりだけ取り残されて、すごくあせる。
休みたいけど、休み方がよくわからなくて。一度足を止めたら、二度と走れなくなるような気もするし。でも休まないと、もう足がもつれてしまいそう。
ああやっぱり、人生ってぜんぜんうまくいかない。
「うまくいかなーーーーーい!!」
イライラした自分の声にびっくりして、目が覚めた。
枕元ではタイマーをセットしていたスマホが、のんびりと電子音を響かせていた。