最初で最後の恋だから。ーセンセイー

夏休み

夏休みに入るとすぐに進学合宿があった。

「紗智、ついていけるかなぁ・・・。」

不安なのは私も同じだった。

スケジュールを見ると自主学習、他には面談と交流と書かれていた。

面談とは先生と自分の進路について考える時間で、二泊三日の合宿の中で私は度々、伊藤先生と話した。

「今は就職も進学も決めれなくて。」

「夢はないのか?」

「夢、ですか?」

「なりたい職業とか。」

「図書館の司書さんになりたいと思ったことはあります。」

「本読むの、好きだもんな。」

「他にないのか?」

「・・・スクールカウンセラーに少し興味を持ってます。」

あの時、差し伸べられる手があったなら。

一人で苦しい思いをすることも心を閉ざすこともなかったように思う。

「スクールカウンセラーか。」

「話下手な私には向いていないかもしれませんけど。」

「カウンセラーに必要なのは話し上手より聞き上手じゃないか?
その点だとお前は向いてると思うが。」

形にもならない自分の夢を語り、聞いてくれる人がいることが嬉しかった。

「先生はどうして国語の先生になったんですか?
それは・・・長くなるからいつか話してやるよ。」

「ありがとうございました。」

「また話したくなったら、いつでも聞いてやるからおいで。」


(先生の笑顔・・・)

自分だけに向けられることがなくてもやっぱり先生の笑顔が、好き。
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