最初で最後の恋だから。ーセンセイー
模擬店を抜けて大階段で周囲を見回したけれど、母はいない。

(帰ったんだろうか)

くるりと方向転換して校門へ走った。

紺色のワンピースの女性がひとり校門を抜けていく。

「母さん・・・っ!!」

足を止めて女性が振り向いた。

「文化祭の途中でしょう。」

ぴしゃりと言い放つ母の顔はいつもより優しく見える。

「来てくれて、ありがとう。」

「・・・楽しそうだった。」

「え?」

「柚依のそんな顔を見るのは初めてだったわ。」

母の顔に笑みが浮かんでいる。

目をこすってみた。

間違いなく、母が笑っていた。

「あなたは小さなときから危なっかしくて頼りなくて、心配させてばかりだった。
心配のあまり怒ってばかりいて口から出るのは小言だけになってしまって。
けれど、少しは考えを改める時が来たのかもしれないわね。」

「お母さん・・・。」

「あなたの選んだ道は楽じゃない。
それでも夢を叶えたいなら精一杯、努力しなさい。」

「ありがとう、お母さん・・・っ!!」

「戻りなさい。」

いつもの調子に戻った母の背中を見送ってから私は模擬店に戻った。
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