徹生の部屋
姫華さんのベッドで使ったリネン類をすべて洗濯し、物干しいっぱいに広げる。風にたなびくそれらを腰に手をあて眺め、軽い達成感を味わっていた。

本日も猛暑日が予想されているから、お昼には乾きそうだ。

それまで私も今夜に備えてひと眠りしようかな。
青いカーテンの引かれた窓を見上げた。

昨日の夜、敷地内にある茶室や蔵を案内してくれるっていっていたのに……。
でも彼の睡眠不足を招いたのは私だし、文句を言える立場じゃない。

とりあえず、冷蔵庫の中身と相談して、今晩の献立でも練ることにしよう。
涼しい屋内に戻ろうとしたら、表の方から控えめなエンジン音が近づいてくる。

お客さま?

玄関に回ると、車寄せに黒塗りのドイツ車が停まっていた。
運転席から、メガネをかけ炎天下にもかかわらずダークスーツを着た男性が降りて、後部座席のドアを恭しく開ける。
そこから出てきたのは、麻素材のパンツスーツを颯爽と着こなすスレンダーな若い女性だった。

姫華さんではないし、奥様というにはあまりにも若すぎる。

ここまで辿り着いたのなら、中で徹生さんが対応し、なおかつ招き入れたということだ。

来客の予定があったなんて知らなかった。お茶出しとか必要だよね。
洗濯カゴを抱えて勝手口から屋敷に入った。

ちょうど階段を降りてくる徹生さんと行き会う。
朝はまだ残っていた気だるさが消え、ノーネクタイながらもきちんとした格好は、まさに御曹司の休日といった体で、思わず背筋を正す。
さっきまで寝ていたはずなんだけど……。

「お客さまですか?」

「『招かざる』だけどな」

「じゃあ、お茶の用意をしますね」

すれ違い様に「悪いな」と頭にぽんと手を乗せられた。
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