徹生の部屋
* * *

こんなに広かったっけ。
三日ぶりに帰ってきた自分の部屋に入ってそう思った。

部屋が広がるわけがないし、あいかわらず物は多い。出ていったときと同じはず。
面積でいえば、桜王寺邸で借りていた客室のほうが広くてスッキリしていた。

それなのに、誰もいない体育館の真ん中にぽつんと立っているような気にさせられる。

とにかく、片づけよう。
ノロノロとスーツケースを開け、洗濯機を回している間に、中身を空にした。

次はいつ使うのだろう。
再びクローゼットの一番奥にしまった。

不在にする予定じゃなかったから、冷蔵庫の中には賞味期限の切れてしまったものもある。
もったいないと思いながら選別した。

封を開けてあった牛乳の消費期限は昨日までだった。
賞味と消費。たしか意味が違うんだよね。
保留にして、冷蔵庫のドアポケットに戻す。

卵は? ちくわは?
一部が赤くなったピーマンは食べられるのかな?

だらだらとそんなことをしているうちに、貴重な夏休みの一日は終了してしまった。


翌日の朝は、悲しいことに腹痛で目が覚める。
確証はないけれど、昨日の夜、カフェオレに使った例の牛乳が原因かも。
トイレに入るたびに、ロフトベッドまで登るのが辛くて床にゴロンと転がった。

薄っぺらいラグを敷いた床から見上げる天井は遠い。ベッドの上だと手が届くほど近いのに。

水分を摂るのも忘れて休んでいたおかげか、夕方になってお腹はだいぶ回復したけれど、生鮮食料品を整理してしまったせいで今度は空腹に襲われた。

一番近いコンビニまでは歩いて十分くらい。それくらいならなんとかなりそう。
日中にかいた脂汗を流し、部屋着よりちょっとだけマシな服に着替えて外に出る。

マンションのエントランスで管理人さんに出くわしたので挨拶した。
なにか話したそうな素振りを見せるけれど、いまの私にはとてもそんな余裕はない。

「すみません、ちょっと急いでいるので」

「あ、あら、そうなの。気をつけてね」

ふらふらとコンビニに行き、ふらふらと帰ってきた。

すぐに食べられて消化に良いもの、と選んだのは、冷凍の鍋焼きうどん。
コンロにかけている間にスポーツドリンクをがぶ飲みしたら、やっと人心地がついた。








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