徹生の部屋
続いてスライドショーのように徹生さんと食べたメニューが現れる。
いったん回想を始めると、私の記憶は再生を止められなくなったのか、桜王寺邸での出来事を次々に思い出させた。
ドン、ドン。
花火が弾ける音まで空耳を始めたのかと思ったら、その音だけは本物だ。
どこかで花火大会をしているのだろうけれど、窓を開けてみたところで、5階からでも見上げるような高層のビルやマンションばかり。その隙間を埋める、星もないのに明るい夜空があるだけだった。
音は聞こえても、花火本体の姿は見えない。
なんだか、自分だけ世界から除け者にされた気がした。
「ひとりは、イヤ」
無意識にそんなセリフが口をつく。
それが私の中にあるなにかの栓を抜いたようで、涙が溢れ出していた。
渋る両親を押し切って、知り合いなど誰もいない東京に出てきた。
憧れの会社に就職して、やり甲斐のある好きな仕事に就けていることには満足している。
職場環境だって円満だ。
ただ、プライベートまで仲良くできるような人は、一年以上経ってもなかなか作れずにいた。
数人いる同年代の同僚とは、接客業という仕事柄で休日が重なることなど滅多にないし、なにもなくても宴会を開く地元と違い、こっちには飲み会で親睦を深めようという習慣がほとんどない。
べつに人見知りとかいう自覚はないけれど、その辺にいる人を捕まえて「友達になって!」なんて言えるほど、図太い神経も持ち合わせてないなかった。
『子どもじゃないんだから、ひとりで大丈夫』
そう啖呵を切ってしまった手前、実家にも泣きつくこともできないし、したくない。
地元の友だちは仕事に家庭にと忙しい子ばかりで、そんなことは贅沢な悩みだと笑われてしまいそう。
こんなに人間がいる街に住んでいるというのに、この世にたったひとりきりで取り残されたような寂しさに襲われた。
小さな部屋の真ん中で、顔を埋めた膝を涙で濡らす。
不意に、そんなことあるわけないのに、頭に温かい重みを感じた。
もちろんそれは錯覚だろう。じゃなかったら、ただのホラーだ。
幻のはずの感覚を、やけにはっきりと身体が覚えている。大きな手で何度も何度も頭と背中を撫でられたことを。
そして……
『俺がいる。ひとりになんてしないから』
耳元でそう、おまじないのように唱えてくれた、徹生さんの声を。
いったん回想を始めると、私の記憶は再生を止められなくなったのか、桜王寺邸での出来事を次々に思い出させた。
ドン、ドン。
花火が弾ける音まで空耳を始めたのかと思ったら、その音だけは本物だ。
どこかで花火大会をしているのだろうけれど、窓を開けてみたところで、5階からでも見上げるような高層のビルやマンションばかり。その隙間を埋める、星もないのに明るい夜空があるだけだった。
音は聞こえても、花火本体の姿は見えない。
なんだか、自分だけ世界から除け者にされた気がした。
「ひとりは、イヤ」
無意識にそんなセリフが口をつく。
それが私の中にあるなにかの栓を抜いたようで、涙が溢れ出していた。
渋る両親を押し切って、知り合いなど誰もいない東京に出てきた。
憧れの会社に就職して、やり甲斐のある好きな仕事に就けていることには満足している。
職場環境だって円満だ。
ただ、プライベートまで仲良くできるような人は、一年以上経ってもなかなか作れずにいた。
数人いる同年代の同僚とは、接客業という仕事柄で休日が重なることなど滅多にないし、なにもなくても宴会を開く地元と違い、こっちには飲み会で親睦を深めようという習慣がほとんどない。
べつに人見知りとかいう自覚はないけれど、その辺にいる人を捕まえて「友達になって!」なんて言えるほど、図太い神経も持ち合わせてないなかった。
『子どもじゃないんだから、ひとりで大丈夫』
そう啖呵を切ってしまった手前、実家にも泣きつくこともできないし、したくない。
地元の友だちは仕事に家庭にと忙しい子ばかりで、そんなことは贅沢な悩みだと笑われてしまいそう。
こんなに人間がいる街に住んでいるというのに、この世にたったひとりきりで取り残されたような寂しさに襲われた。
小さな部屋の真ん中で、顔を埋めた膝を涙で濡らす。
不意に、そんなことあるわけないのに、頭に温かい重みを感じた。
もちろんそれは錯覚だろう。じゃなかったら、ただのホラーだ。
幻のはずの感覚を、やけにはっきりと身体が覚えている。大きな手で何度も何度も頭と背中を撫でられたことを。
そして……
『俺がいる。ひとりになんてしないから』
耳元でそう、おまじないのように唱えてくれた、徹生さんの声を。