徹生の部屋
もういいかな?

大きく息を吐き出した途端、今度は部屋の前でインターフォンが押された。
画面を確認しなくったってわかる。徹生さんだ。

ボタンを連打され、そんなに大きくなくても聞こえるよ、というくらいに鳴り響いていた音がピタリと止む。
かと思ったら、彼は玄関ドアを直接叩くという暴挙に出た。

ドンドンドンドン

「楓! いるんだろう? なぜ開けない」

ドンドンドンドン

「楓っ!!」

ええっ!? これってもしかしなくても通報ものでしょ。ご近所迷惑だよ。
渋々とインターフォンの受話器を取った。

「……なにしに来たんですか? 帰ってください」

「そこに楓がいるのに、なぜ俺が帰らなければいけないんだ。さっさと扉を開けろ」

「イヤです。会いません。帰ってください」

通話を切り、外の様子を窺おうと玄関まで移動して驚いた。
鍵がかかっていたはずの玄関のドアノブが勝手に動いたのだ。が、ドアガードに阻まれて10センチ足らずの隙間が開いただけに留まる。

そこから剣呑な色を湛えた瞳でこちらを覗く徹生さん。こ、怖いです……。

「こんなときだけ余計なものを」

舌打ちして、私にドアガードを外すように命令した。
もちろんそれに応じるつもりはない。

「お願いします。帰ってください」

もう意地だった。ここで彼を部屋に入れたら、きっとまたみっともない姿をみせてしまう。
背中を向けて拒否を示した。

「そうか。わかった」

ドアが閉められ静けさが戻る。

どうせなら、花火の夜に来てほしかった。まだ、夢から覚めきっていなかったあの夜に。

肩を落として部屋に戻った私は、自分の目を疑い何度もこすった。
それでもその存在は、決して消えることなどなくて。

「どうやって入ってきたんですか? 徹生さん」

実は王子さまではなく、魔法使いだったのだろうか。
そんな私の疑問を、鼻先で吹き飛ばす。

「あれほど言ったはずだ。危機管理意識をしっかり持てと」

彼の後ろでオリーブグリーンのカーテンが、生暖かい夜風に吹かれて揺れていた。




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