徹生の部屋
窓は花火の音を確認したあと、鍵をかけ忘れていた。
まさか、この前言っていた非常階段から?
「なんでそんな危ないことをするんですか。なにかあった……らっ!?」
危険を冒した徹生さんを心配する私がなぜか、彼の腕の中に包まれていた。
「心配させられたのはこっちだ。体調は大丈夫なのか? 顔が赤いな。熱は?」
コツンとおでこをつけて確かめられたら、平熱だって上昇してしまう。目の前にある瞳から視線を俯け、どうにか平常心を保とうとする。
「だいたい、どうやってオートロックを通ったんですか」
「部屋の灯りが点いているのに応答がないと言ったら、管理人が開けてくれた。彼女も、夕方に見かけた顔色が悪かったことを気にかけていたそうだ」
意外なことを聞かされてちょっと驚く。挨拶くらいしか付き合いのない管理人さんでも、けっこうみていてくれていたんだ。
「中で倒れているかもしれないと、合鍵まで貸してくれたぞ。さすがにそれはどうかと思うが」
強行突破を試みた張本人がなにを言う。いや、窓からすでに不法侵入済みか。
一歩間違えば、ストーカーとして通報されてもおかしくない。とんでもない御曹司がいたものだ。
「ほんとに、もう。そこまでしていったい何をしにいらしたんですか」
返ってくる答えに期待をしてはダメ。
ただ、忘れ物を届けに来ただけかもしれない。触りとはいえ経営に関する話をしてしまったことを、口止めに来たとかもあり得る。
それでも訊かないわけにはいかなかった。彼がいま、私の部屋にいる理由を。
徹生さんはちょっと思案してから、困ったように苦笑いで答えた。
「飯を食いに来た」
「え、ご飯、ですか?」
想定外の答えが私を混乱させる。自慢ではないが、料理の腕は並の並だと思う。それは彼も承知のはずでは?
「ああ、据え膳を食べ忘れていたことに気づいて。すえる前に食べておかないと、腹を壊すだろう?」
イジワルに口の端を上げる。
思わず、治ったはずのお腹を押さえて後退った。
「というのは、冗談……でもないが、とにかくなにか食わせてくれないか。腹が減っているんだ」
「食べていないんですか?」
夕食の時刻としてはたしかに遅い時間だけれど、わざわざそのためにここまで来たというのだろうか。
「いいや、食べていないわけじゃない。ただ、食べた気がしないというか、なにを食っても旨くないんだ」
まさか、この前言っていた非常階段から?
「なんでそんな危ないことをするんですか。なにかあった……らっ!?」
危険を冒した徹生さんを心配する私がなぜか、彼の腕の中に包まれていた。
「心配させられたのはこっちだ。体調は大丈夫なのか? 顔が赤いな。熱は?」
コツンとおでこをつけて確かめられたら、平熱だって上昇してしまう。目の前にある瞳から視線を俯け、どうにか平常心を保とうとする。
「だいたい、どうやってオートロックを通ったんですか」
「部屋の灯りが点いているのに応答がないと言ったら、管理人が開けてくれた。彼女も、夕方に見かけた顔色が悪かったことを気にかけていたそうだ」
意外なことを聞かされてちょっと驚く。挨拶くらいしか付き合いのない管理人さんでも、けっこうみていてくれていたんだ。
「中で倒れているかもしれないと、合鍵まで貸してくれたぞ。さすがにそれはどうかと思うが」
強行突破を試みた張本人がなにを言う。いや、窓からすでに不法侵入済みか。
一歩間違えば、ストーカーとして通報されてもおかしくない。とんでもない御曹司がいたものだ。
「ほんとに、もう。そこまでしていったい何をしにいらしたんですか」
返ってくる答えに期待をしてはダメ。
ただ、忘れ物を届けに来ただけかもしれない。触りとはいえ経営に関する話をしてしまったことを、口止めに来たとかもあり得る。
それでも訊かないわけにはいかなかった。彼がいま、私の部屋にいる理由を。
徹生さんはちょっと思案してから、困ったように苦笑いで答えた。
「飯を食いに来た」
「え、ご飯、ですか?」
想定外の答えが私を混乱させる。自慢ではないが、料理の腕は並の並だと思う。それは彼も承知のはずでは?
「ああ、据え膳を食べ忘れていたことに気づいて。すえる前に食べておかないと、腹を壊すだろう?」
イジワルに口の端を上げる。
思わず、治ったはずのお腹を押さえて後退った。
「というのは、冗談……でもないが、とにかくなにか食わせてくれないか。腹が減っているんだ」
「食べていないんですか?」
夕食の時刻としてはたしかに遅い時間だけれど、わざわざそのためにここまで来たというのだろうか。
「いいや、食べていないわけじゃない。ただ、食べた気がしないというか、なにを食っても旨くないんだ」