徹生の部屋
Bonus track ふたりのマイホーム
* * *
ピッカピカに磨かれた大きなガラスの自動ドアを潜り、大理石の床を進む。見あげれば高い吹き抜けに輝くシャンデリア。
「おかえりなさいませ、井口さま」
「ただいま、遠山さん。こんばんは」
紳士的な風貌の彼は、24時間体制で常駐しているコンシェルジュのひとりである。
上層階専用のエレベーターに乗り込み、36階のボタンを押す。高速で上昇を始めると、耳に不快感が生じる。
ここに住むようになってそろそろ三ヶ月になるけれど、こればっかりは慣れることができない。
チン、と軽い音とともにエレベーターが停止した。
降り立った床も、鏡みたいに廊下の照明の光を映している。
グレーとシルバーーの近代的なデザインをした玄関に、カード型のキーをかざすことなく扉が開いた。
「おかえり、楓」
「ただいま」
なんで徹生さんは、私がドアを開けるタイミングがわかるのだろう? まるでお留守番をしているワンコのように正確だ。
「買い物をするんだったら、迎えに行ったのに」
私が提げている買い物袋をちらりと見て、不満げな顔をする。
「卵と牛乳だけだから」
まずはキッチンに直行して、大きな冷蔵庫にしまう。洗面所でうがいと手洗いをしっかり済ませてリビングへ。
ブラインドカーテンがあげられた窓の向こうには、東京の夜景が広がる。
この星空みたいな灯りの下に、何万もの人たちが生活しているのかと思うと、ため息しか出なかった。
ピッカピカに磨かれた大きなガラスの自動ドアを潜り、大理石の床を進む。見あげれば高い吹き抜けに輝くシャンデリア。
「おかえりなさいませ、井口さま」
「ただいま、遠山さん。こんばんは」
紳士的な風貌の彼は、24時間体制で常駐しているコンシェルジュのひとりである。
上層階専用のエレベーターに乗り込み、36階のボタンを押す。高速で上昇を始めると、耳に不快感が生じる。
ここに住むようになってそろそろ三ヶ月になるけれど、こればっかりは慣れることができない。
チン、と軽い音とともにエレベーターが停止した。
降り立った床も、鏡みたいに廊下の照明の光を映している。
グレーとシルバーーの近代的なデザインをした玄関に、カード型のキーをかざすことなく扉が開いた。
「おかえり、楓」
「ただいま」
なんで徹生さんは、私がドアを開けるタイミングがわかるのだろう? まるでお留守番をしているワンコのように正確だ。
「買い物をするんだったら、迎えに行ったのに」
私が提げている買い物袋をちらりと見て、不満げな顔をする。
「卵と牛乳だけだから」
まずはキッチンに直行して、大きな冷蔵庫にしまう。洗面所でうがいと手洗いをしっかり済ませてリビングへ。
ブラインドカーテンがあげられた窓の向こうには、東京の夜景が広がる。
この星空みたいな灯りの下に、何万もの人たちが生活しているのかと思うと、ため息しか出なかった。