HAZY MOON
眠れるわけが無かった。


頭の中を無理矢理に空っぽにして、ギュッと瞳を閉じたところであっさりと蘇る。


母の名前を親しげに呼んだ梶先生の声。


わたしを貰うと言った尊の見たことも無い程真剣な顔。


静まり返った部屋に響く時計の秒針と相俟って、それらは一晩中わたしの頭の中を巡っていた。



太陽が漏れるカーテンを適当に開け、寝不足の重い体に制服を着せる。



「おはよう。雫希」

ダイニングに現れたわたしに、祖母はいつも通りの笑顔を見せた。


その笑顔の中に隠されているもの。

尊とわたしの約束。


それを思うと、いつものように笑顔を返すことなんて出来なかった。




朝から不機嫌なわたしに、不安げにオロオロする祖母を無視して家を出た。


いつもの半分程度しか食べず、食器すら下げなかったわたしを祖母がどんな顔で見送ったかは想像にかたい。


きっと眉尻を垂らした、悲しそうな顔。

そうわかっているのに、取り繕え無かった。
それくらい、今のわたしには心に余裕が無かった……。
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