HAZY MOON
尊に会ったらどんな顔をしたら良いだろう……。

そんなわたしの心配を余所に、いつも通りの昼休みを迎えていた。


「雫希っ」


カバンからお弁当を取り出そうとしていたわたしに声がかかる。


「お弁当、預かって来た。忘れて行ったろ?」



ゆっくりと視線を上げたわたしの前に、見慣れた弁当袋を持った笑顔の尊が立っていた。



「たまには一緒に食べよう」


尊の申し出に無言で頷き、黙って後ろについていった。


使われていない教室は、少し埃っぽい匂いがする。


入り口の近くにある椅子に手を伸ばした尊が、不思議そうにわたしを見た。



「どうかした?」


「……うん。別に」


いつものように穏やかに微笑む尊に、昨日の病室での表情が重なった。


尊はわたしがあの場に居たことを、もちろん知らない。


だからこうして、いつも通りに接してくるんだろう。


わたし独りが動揺して、落ち着かない。


「ちょっと手、洗って来る」


まともに尊の顔を見ることも出来ない。

少し気分を落ち着けたい。

こう言って尊に背を向けた瞬間、


「……聞いてたんだろ? 昨日の会話」


「っ!?」


尊に勢い良く手を掴まれていた。


反射的に振り返った先には、ただ無表情にわたしを見下ろす尊が居た。


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