HAZY MOON
「我が儘で気紛れな幼なじみが、多額の財産に変わった瞬間」


「……尊っ」

妖艶に微笑む尊が、一歩わたしに近付く。

そこには、今まで見せていた少し皮肉屋で、でも優しさを兼ね備えていた幼なじみの顔は無かった。



「……おまえは、跡取りの道具として、小野寺の家に置かれてたんだ」


「……えっ」



頭の中が一気に暗転した。
母親に捨てられたわたし。
愛し、可愛がってくれた祖父母の愛情は……偽り?



「十八になったら……雫希を貰いに行くよ」



耳元で囁いた尊の声を聞いた次の瞬間、


「っん!」


首筋にチリッとした鈍い痛みと、尊の湿った唇の感触が広がった。



甘い囁きとは裏腹に込められた感情。
跡取りの道具。
それを手に入れる為の契約。



そこに、愛なんていう温かで幸せなものなんて無い。


「っ……ぅっ……」


まだ唇の感触が残る首筋を、ギュッと手のひらで押さえた。

今まで信じていた祖父母の愛情。
尊との絆。


それらは全て虚像だった。



わたしを捨てた母親。

小さな頃、家族で行った動物園で過ごした時間。



どれが本物なのかわからない。



もしかしたら……本物なんて存在しないのかもしれない。





お母さん……。

なんで、わたしを置いて行ってしまったの……?

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