HAZY MOON
「何やってんだ」



五限目の授業が始まって数分は経っている。

静まり返った校舎の中で、カバンを提げて歩いていたところをあっさり捕まった。

……一番会いたくない人物に。


廊下とサンダルの擦れる音と一緒に歩み寄って来る彼は、


「許可は?」


わたしの正面で立ち止まり、早退の許可を確認してきた。
準備室で母を夕希と呼んだ彼はそこに居ない。
都合の良い教師面。
腹が立って仕方無い。


「放っといてっ」


無表情でわたしを見下ろす梶先生に、ぶっきらぼうに吐き捨てる。


「……泣いてたのか?」


彼を睨み付ける視線を無視して、彼は真っ直ぐにわたしを見つめていた。
無表情だった彼の瞳に、ほのかに温もりを感じたのは気のせいか……。


わたしは気まずくなって目を伏せた。



「おまえは泣くな。笑え」

「えっ……」


思いがけない言葉に、視線を梶先生に戻す。
重なった視線で、彼は更に言葉を続けた。
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