HAZY MOON
「だったら、俺と別れてあの家に留まることだって出来たはずだ。……それをしなかったのは他でも無い、夕希自身だ」


「っ!!」


返す言葉なんて全く持ち合わせていない。
梶先生の言う通り。
母はわたしでなく、梶先生を選んだんだ。


「気が済んだら出て行けっ。邪魔だ」


冷たく言い放ち、梶先生はわたしに背中を向ける。
拒絶だ。


「……十二年前も、そんな風に思ってたんでしょ」


「はぁっ?」


声が震える。
斜めに振り返った梶先生が、横目にわたしを見ている。
それでも、負けじとスカートを握り締めた。


「アナタにとって……わたしは邪魔な存在。今も昔もっ」


斜めに向いていた視線すら正面に戻してしまった。
完全にわたしに背中を向け、


「あぁ、そうだ」


ただきっぱりと言い切る声だけが、部屋と頭の中に響いた。


「……最低っ! アナタなんて大嫌いっ!」



声の限り叫んで、部屋から飛び出した。

嘘でも良い。
母がわたしを手放したくて手放したんじゃないって……言って欲しかった。


それだけでわたしは、強く在れると思ってたから……。






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